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Product-Led Growthでやっていく

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ここ最近、スタートアップ界隈で急速に話題になっているのがProduct-Led Growth(PLG)だ。

従来のセールス中心の売り方とは異なり、プロダクト中心の売り方となる。

セールス中心の売り方として鉄板となっているのが、THE MODEL。マーケティングチームがリードを作り、それをインサイドセールスチームが商談化し、クロージングチームが成約させる流れだ。

日本企業はセールス中心の企業が大半だと思う。
多くのサービスがアカウント登録へのリンクを閉ざし、料金表を伏せ、お問い合わせベースで成約を取っていく。
値段が分からないから問い合わせるしかなく、どのサービスも同じ形態を取っているからそれが成り立っているとも思える。

正直言って自分はそのスタイルが嫌いで、microCMSは誰でもアカウント登録ができるようにしてきた。
とにかく触ってもらい、フィードバックをもらい、改善するというのをひたすら繰り返してきた。
その結果、インバウンドのみでここまで売り上げを伸ばすことができた。

しかし会社の人数も増えてきて、売上もより伸ばす必要があり、プロダクト中心だったものが段々セールス中心に変わっていった。
日本の一般的なSaaSを参考にし、マーケチームは資料請求からの商談数を増やすことに力を注いでいた。

開発とマーケのすれ違い

結構しんどい状況が続いていた。
原因としてはマーケチームはアカウント数や商談数などMRRに直結する数値を追っており、開発チームは主に顧客満足度を高めるための数値を追っていた。
一見、うまい具合にKPIの棲み分けが行われていると思われるが、チームそれぞれが目標を達成しようとするとお互いを阻害してしまうということに気付いた。

マーケチームは開発チームにもっと売りやすくなるための機能追加を求めるが、開発チームは別にそれをやっても自分達のKPIには直結しないし、マーケ施策がうまくいく保証もないので、あまり乗り気にならない。
一方で、会社の売上が伸びないとマーケチーム側の責任となる。

いわゆる組織のサイロ化が起こっていた。

体制の見直し

これは明らかに組織構造による歪みと思われたので、以下の対策を行った。

  • セールス中心の売り方はやめ、再度プロダクト中心の売り方に方向転換した
  • 目標は開発とマーケで分けず、全員で共通の目標を設定した
  • 朝会も開発とマーケで分けず、毎日全員で朝会を行うこととした


そうすることで全員が同じ方向を向くことができ、やっと全体がひとつにまとまった感があった。

再度プロダクト中心で進めていくと決めたことでやるべきことも明らかになってきた。
そして、その方針を決めたちょうどその日に「Product-Led Growth 本」が発売されたのをTwitterで知った。(ビックリした)

開発チームは正直なところ、そんなに以前と変わらないと思っている。
今まで通り、ユーザーのためにプロダクトを磨き上げていく。

変わるのはマーケチームの役回りだ。
今まではリード獲得に重きをおいていたが、極論を言えば、もはやリードは不要になった。

とにかく多くのエンジニアに使ってもらうことを目指す。
そのために開発チームで作り上げたものを全力でPRしていくことがまず第一の仕事だ。
これは開発とマーケが同じ方向を向いている感があってとても良い。

今までは機能を追加してもマーケチームとの連携がうまく取れておらず、そこでも多少いざこざが起こっていた。
しかし朝会を毎日全体で行うことで情報共有がしっかりと行われ、結束が固まったと感じている。
(現状10人弱だから何とかなっているが、これが20人だと成り立たないかもしれない)
(それはまた別の問題として置いておく)

二つ目の仕事は情報の整理だ。
必要な情報を探し出せるようにサイトやドキュメントの整備を進めていく。
導入事例集め、機能紹介などやらなくてはならないことはまだまだ多い。

PLGの進め方

PLGでは、プロダクトがセールスも兼ねる。
オンボーディングやアップセル・クロスセルの流れをプロダクト内で磨き込み、セールス人員を挟まなくても売り上げを増やしていけるのが肝となる。

そのために重要となってくるのがプライシングだ。

PLGではまずユーザーにプロダクトを触らせる必要があるため、フリーミアムモデルかフリートライアル、またはそのハイブリッドが必須となる。
また、プライシングを定めるにあたって重要となってくるのがバリューメトリクスである。
PLG本から引用する。

バリューメトリクスは、プロダクトのプライシング、プロダクト指標、そしてチーム編成において重要な役割を担う。ではこのメトリクス、一体どのようなものだろう?
・ウィスティアのような動画プラットフォームのバリューメトリクスは、動画のアップロード数だろう
・スラックのようなコミュニケーションアプリのバリューメトリクスは、送られたメッセージ数かもしれない
・ペイパルのような決済プラットフォームのバリューメトリクスは、生み出された売上の総額だろう


プロフィットウェルのCEO、パトリック・キャンベル氏によると、バリューメトリクスには2種類ある。それは、機能的メトリクスと対価ベースのメトリクスだ。
機能的バリューメトリクスは「1人あたり」や「100動画あたり」といったものだ。プライシングは使用頻度にもとづくことになる。
一方、対価ベースのバリューメトリクスは、結果に応じて課金される。たとえば、その動画の視聴数や、顧客の利益にどれだけ貢献できたか、といった具合だ。


microCMSにとってのバリューメトリクスは何なのか?
実際のユーザーデータを分析しながら、どの指標が最大の軸になるのかを検証中である。
(ヘッドレスCMSは内部に様々な指標があり、一筋縄ではいかないことは分かった・・・)

プライシングが定まったら次はデータ分析が必要だ。
プロダクト内部でユーザーがどんな行動をしているのか分析し、どんな作業をしているのか、どこで離脱しているのかなどを把握する。
あらかじめ想定していたジャーニーマップに沿った行動をしているのかをチェックする。

ユーザーがちゃんとプロダクトの価値を享受できているのか?出来ていないとしたらどこで躓いているのかをしっかりと見極め、正規ルートに戻してあげる必要がある。

正規ルートをボーリングレーンに見立てた「ボウリングレーン・フレームワーク」という考え方がある。
ボウリング同様、ボールがガターに落ちないように左右2本のバンパーで支えてあげる必要がある。

プロダクトバンパー

プロダクト主導型モデルに必要不可欠なもので、ユーザーが自らプロダクトを導入できるようにサポートする。

コミュニケーションバンパー

ユーザーを啓蒙する役割を担い、アプリへの裁縫や有料版へのアップグレードを働きかける。

2本のバンパーのどちらがより重要かと聞かれたら、恐らくプロダクトバンパーのほうだと答えるだろう。役に立つプロダクトであれば、こちらから働きかけなくともユーザーは再び戻ってくるはずだからだ。


プロダクトバンパーにおいて考えるべきポイント。

  1. ウェルカムメッセージ
  2. プロダクトツアー
  3. プログレスバー
  4. チェックリスト
  5. オンボーディング・ツールチップ
  6. エンプティステート


いずれもオンボーディングを強化するための策だ。
一方でコミュニケーションバンパーで重要となるメール施策は以下の通り。

  1. ウェルカムメール
  2. 利用ガイドメール
  3. セールスタッチ・メール
  4. カスタマーレビュー
  5. ケーススタディ・メール
  6. ベターライフ・メール
  7. トライアル後のアンケートメール
  8. 有効期限切れ警告メール/トライアル延長メール
  9. カスタマーウェルカムメール


送るべきタイミング等はPLG本にて詳しく載っているので気になる方はぜひ。
これを手動でやっていては骨が折れるので、MAツールを上手く活用してやっていくのがベターかと思われる。

そして最も重要なのがチャーンをできる限り抑えること。

カスタマー・リテンション・レート(顧客維持率)を5%上げるだけで、売上を25~95%も上げることができることを考慮すると、この理由は実にばかげている。新規獲得ファーストからリテンション・ファーストのマインドセットに移すと、ビジネスを著しく成長させることができる。


microCMSは比較的低いチャーンレートで来れていると思うので、引き続き維持していきたい。(そして、もっと下げられるはず)

まとめ

エンジニア向けサービスであるmicroCMSはかなりProduct-Led Growthが向いているサービスだと感じている。
全力で開発し、それをマーケが全力でPRをしていく。
そしてプライシング改善、オンボーディング改善、アップセル強化をしていく。

PLGが上手くハマって良い感じに回るようになったら、「SaaSの少数精鋭は不可能論」を打破できるかもしれない。

柴田 和祈 X GitHub
株式会社microCMS 共同創業者 / デザイナー兼フロントエンドエンジニア / ex Yahoo / 2児の父 / 著書「React入門 React・Reduxの導入からサーバサイドレンダリングによるUXの向上まで 」

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